音のするほうを見ると、エナジードリンクの空き缶が、風の思うままに従って、あちこちへと転がっているのでした。誰かが道端に置いたか捨てたかした空き缶が、風に拾われて転がり始めたのでしょう。
道路というものは普通、真ん中が付近が小高くなっているので、ほどなくして道路の脇に収束しそうなものですが、この缶めは、すべて風のせいにでもするつもりなのか、漫画チックに甲高い音をたてながら、無人の交差点で傍若無人の振る舞いに終始しているのでした。誰か拾わないのか? じゃあ自分はそうしないのか。それはしない。思い切ってドアを開けて交差点に立ち、缶に手を伸べた矢先に逃げられてあちこちさまよい、で、結局つかまえられず、恥ずかしい思いをするだけで終わるという図が、瞬間的に生まれてくる。
しばらく音がやんでいる。いまやつはどこにいるのか? 自分の前か? 反対車線か? と思うまもなく再び三たび、カッカッカ、カカカカッカッカ……とどこからともなく音が始まる。動きも静止もランダムウォークであって、まったく予想が立たない。きょうこいつの描いた軌跡に何か意味があるのか。いや、何もない。昔の漢文の授業みたいだ。「どうして意味があるだろうか(いや、ない)」という反語文の訳には、「いや、ない」を付けないと不正解にされた。また静かになった。どこだ、どこにいる。これを最初に踏むやつが、信号を待っているこの中から出る。そいつは負け組となるのだろうか。宝くじに当ったことがきっかけで、全財産を失う人。それはきっと他人。自分じゃない。何もしない者には、何も訪れない。
信号が青に変わった。
〒510-0307 三重県津市河芸町影重861-1
TEL : 090-1755-3871
URL : https://ilneige.com