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自家製トピック
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自家製トピック
ありもしない話に腹を立てている
自作掌編
2013年6月15日(土)
枠物語というのはありますが、これは強いて言えば、逆枠物語。

おけらA 「Bくん。おれ気に入らないんだよ」
おけらB 「なんだい。やぶからぼうに」
おけらA 「こんな話を読んだんだよ」

…… 話 ……

おけらB 「まあ、よくある筋書きだね」
おけらA 「だろ。おれもう、くしゃくちゃしちゃってさあ」
おけらB 「それよりその本、早く返してくれよ」

そんなんでもいいでしょうが、ここは三重県。赤福風に、餡子を表に出しました。

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 森にも春がやってきました。
 大きな木の根元に三匹の子リスのきょうだいが集まって、なにやら言い争いをしています。
 子リスでも乗れる自転車が一台しかなくて、それを取り合っているようです。どの子も同じように、なかなかあとには引きません。
 そこへ通りかかった狐のお兄さんが、じゃんけんで決めたらどう、といいましたが、うなづいたのは一匹だけで、あとの二匹は首を横に振ります。狐のお兄さんは困ってしまいました。
 まあ、あなたたちどうしたの、とそこにヤギのおばさんが、足を止めて話に加わりました。狐のお兄さんからわけを聞くと、ヤギのおばさんはいいました。
 じゃあ、こうしましょう。いまここには狐のお兄さんとおばさんを入れて五人いるから、多数決で決めるのよ。はい、じゃんけんがいいと思う人手を挙げてえ。
 三本の賛成票をもくろんでいたヤギのおばさんは、ここでこけてしまいした。子リスの手が一本もあがらなかったからです。
 まあ、あなたたち、まだ子どもだから、多数決の意味がよくわからないのね。とくにあなたね、はじめは賛成してたようだけど。こんどはどうしたのかな。
 おとなたちは手をこまぬき、子リスたちはふたたび言い争いをはじめました。

 とうとう、森の奥に住むくまさんが話を聞いてやってきました。
「その自転車でどこに行くつもりだったんだい?」
 くまさんが聞くと、子リスたちは声をそろえていいました。
「病気のおばあさんのおみまいに行くの。でも自転車がひとつしかないから、あとのふたりは行けないの」
「そりゃあ感心だ。リスのおばあさんの家なら、ぼくの家の近くだから送ってあげよう。みんなぼくの背中に乗りたまえ」
「わーい。うれしいな。くまさんありがとう」
 子リスたちはおおよろこび。狐のお兄さんもヤギのおばさんも目を細めています。
 ──さすがくまさん。頼りになるわね。


 ──はあ~。
 何かため息が聞こえます。
 ここに、おけらがいました。
 おけらは木の根もとの穴から頭を出して、いままでの話をふんふんと聞いていました。
 このおけらには、ありもしない話をでっち上げて、ひとりで腹を立てるくせもありました。
 自分のことを、世界の中心で真理を求めてなげくおけらかなとチラッと思ったりもしていました。
 おけらは腕組みをして考えました。

 どうしていつも大きいものが後から出てきて問題を解決するのか。
 どうしていつもみんなは大きいものの意見に従うのか。
 なんでくまさんはいつも森の奥に住んでいるのか。
 なんで「とうとう」くまさんが、なのか。
 なんで小さいものはいつも複数いるのか。
 なんで小さいものはいつもまぬけなのか。
 ──はあ~。
 おけらは、左右の手の平を両脇から上に突き出す例のポーズをとろうとしましたが、くまさんが動き出したので、いそいで穴に首を引っ込めました。


 くまさんはのっしのっしと森の小蹊を歩きます。
 気持ちのいい風が木々の間をぬって通り過ぎます。
 三匹の子リスは、くまさんの背中でおおはしゃぎ。楽しそうに歌を歌っています。
 いえ正しくは、はしゃいでいるのは二匹だけで、あとの一匹は何やら心配顔です。

 この一匹は、ブレという名前の末っ子で、狐のお兄さんが「じゃんけんで決めよう」と勧めたときに、ひとりだけうなづいた子でした。
 ではどうしてブレは、ヤギのおばさんの提案の時には手を挙げなかったのでしょうか。ヤギのおばさんの言うように、多数決の意味がわからなかったのでしょうか。
 いいえ、そうではありません。ブレが手を挙げなかったのは、狐とヤギが、ブレの一票をおとな側の票として取り込もうとしていることに気づいたからなのでした。
 子リス側の結論としては、ヤギが現れた時点で「じゃんけんには反対」ということですでに決まっています。ブレは、子リスの仲間内で少数がゆえに潰されてしまった自分の意見を、だからといって他の選挙区の票と通算することに抵抗感をもったのです。
 ブレのIQは百三十八ほどあり、出現率で〇・六パーセントの頭脳の持ち主でした。多くの間違いも犯しましたが、よい判断もしてきました。今回もどちらだかわかりませんが。
 さて、ブレの心配事とはなんでしょう。どうして浮かぬ顔をしているのでしょう。
 ブレは、惰性で打ってきた手拍子をやめて、くまさんの首のほうを見上げました。くまさんが歩くのに合わせて頭をわずかに上げ下げするたびに、黒い毛に覆われた首まわりの筋肉がもこもこと動いています。性的なメタファーは、まだ子どものブレには理解できません。ひと「もこ」動くたびに、地面から離れた位置を子リス二十匹分くらい移動するので、たしかにこの方法は安全で効率的だ、とブレは考えていました。
 ブレはちょこちょこっとくまさんの首の上を駆け抜け、耳元まで来ると小さい声でたずねました。
 ──くまさん。わたしたち、自転車はどうしたのだったかしら。
「あひっ」
 くまさんは素っ頓狂な声を出すと、その場に立ち止まってしまいました。あまり急なことだったので、ブレや他の子リスたちは、もう少しでくまさんの背中から落ちてしまうところでした。
 くまさんは「自転車かあ。そういや忘れてたね」などというかわりにこう言ったのでした。
「あれえ、きみは女の子だったのかい」





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