Twitter に書いたのと、ほぼ同じことが出ています。
昔もいまも、スイカの値段は、単行本一冊と同じくらいだ。近くの安売りスーパーでは、大玉が千七百円で売られていた。ひと昔前は八百円くらい。その時分は、財布に千円札でも残ればすぐに本を買ったものだったが、いまはそんな気が起こらない。中身がスカスカよりスイカのほうがいいとは言わないけど。
嫁が、かかる医者を変えた。遅きに失した正解だった。悔やまれるのは、はじめのポンコツに引っかかり、侮りと誤診とあらぬ向きへの紹介(紹介状を受け取った側も面食らっただろう)で、大切だった時間を失ったこと。知らずに行った当人のせいなのだが、迷惑だから医院の看板など揚げるなよと言いたい。
★ところが気がつくと、目の前の卓袱台の前に坐っているのは、日向に似た他人だった。ひょっとして自分は寝ていたのだと思い、さきほど夢の中で聴いた甲高い声はあなたのものだったのかと尋ねるのだが、正面の女は口を濁して捗がゆかない。この女は誤魔化している。事実を知っても、理由がわからない。
★日向とぐうぜん出合い、ふたりで話す時間を持てた。顔を見るのは四十ニ年ぶりだったし、こうして差し向かいで話すのは過去にもない。日向は可愛いままだったが、わずかに太りはじめていた。右手の廊下側の戸の向こうから、日向の父親らしい声がした。日向が甲高くぞんざいに返答したのが意外だった。
町田康『浄土』。とくにはじめに掲載されている『犬死』。2001年、40歳のときに書かれた作品で、町田文学の最高峰に位置するものと確信する。これを越える純文学作品を求めるのは無理筋というもの。ならば、あらゆる骨肉をあばき、換骨奪胎を試みることにする。他人への満足で終わらせることはしない。
自分にとっての「いまここにない世界」とは、未来のことだった。それが今では、過去のあるときに自分が描いた未来のことを指している。つまり、むかしも今も同じものを指している。三角関係。その世界は、「いまここにない世界」であり続けている。ずいぶん遠くなった。遠くなって瞬く光はより美しい。
★大勢が集う大会会場のいちばん右の列に家族で並んでいた。香良洲のIさんが現地で手配してくれたのだった。ことばも習慣も同じ。夏は乾いていて快適。──稚内ですか? ──そう。ここは稚内。自分の中の北海道は、地図の上の鉄路を指で追い、あらゆる場所に到達することがかなわぬと観念した場所。
けさの新聞記事で、「一定の効果はあったが(中略)期待以上の効果は上がらなかった」とあった。記者は何を書きたいのだろうか。例の「期待以上」が乱用されている。インタビューした相手は期待はずれの結果しか得られなかったというのが実態なのだ。「期待以上」を否定することで曖昧な答弁と記事に。
★いましがた退院した病室に忘れ物をしたことに、玄関口まで下りたところで気づき、引き返すのだが、なかなか戻れないでいる。脇から助言をもらうたびに、ああそうだったと納得はするのだが、その先の展開がない。見知らぬ大勢の人々が行き交う通路の中に、妻と息子のペアを偶然見つけ、安堵している。
比喩は離したほうが美しく灯る。本体に近すぎる比喩は間が抜けている。しかし遠すぎると、比喩として気づいてもらえなくなるおそれも出てくる。単独扱いされては元も子もない。そこで、同じ方向の比喩では目いっぱい離し、異なる向きでは近くに置くようにしている。自分ひとりのための文なら別だけど。
ここのところ体重が増えてきた。年末の57キロ台から3キロも増えてきている。筋肉が増えたからとか膵が回復したからなどの解釈も限界で、つまりはナッツなど脂肪分の摂りすぎが原因だと踏んでいる。習慣には、前例を踏襲するだけではなく、小さい新たな習慣をも自身に取り入れる性質があるのだろう。
★同僚にUさんというお大尽がいて、中古で家を買ったのだが、中世フランスのお城と見まごう大普請のもので、訪れたみんなは呆れていた。職場には、家を買った仲間には、カーテンや調度品を共同でプレゼントする慣わしがあり、他人の家のカーテンのために破産するという、類を見ない経験に怯えていた。
他人とは未来にこそ意義のある存在であって、過去には無意味だ。思い出の中に生きる人は、自己の中に再現される記憶にほかならず、すべて濁っている。それは未知なる他者という意味の人ではないため、いまの自分に、人としての役割は為さない。我知らずとも、都合よく変形させられているにちがいない。
AIを駆使した自動運転が普及したとき、制限速度はいまのままなのか。完全な遵法動作が、流通と損保の大混乱をもたらす。同じように、ブラック企業をなくせばそのあとで、彼らが日本経済を回すオイルの役割を果たしていたのだと懐古する向きが出る。建前だけでは動けない国情がある。私は嫌いだけど。
哲学者の胸にも聴診器は要るだろうよとふんぞり返る人たちは、昔もいまも同じ。だが近々、肉体を持たない知性のみの存在が現れる。AIに生理機能はないし、生殖や遺伝にも無縁だろう。腹は減らないし毛は伸びない、肌あれもない。診断の適確を検証するAIに、「君、血圧が高いようだね」は通らない。
野球とは無縁だが、衣笠選手の高名はよく耳にした。氏が泉下に入り、かつての鉄人ぶりを回想する記事が出た。案の定、負傷をものともせずに敢然と立ち向かう精神力をたたえるものがほとんどだった。例の「シンデモ ラッパ ヲ……」の国民的熱狂を想起する。ご本人は楽しかったからと言っているのに。
開業医らの診察、処方箋、紹介(○×先生御侍史w)で、えらい目に遭わされているのは嫁であって、じつは私ではない。しかし嫁は嫁で、三つにひとつくらいは面白がっているふうがあって、あちこちでしゃべりまくるので、それはもう単独クチコミ。人様の耳には医者らの無茶苦茶な物言いが受けるらしい。
これは忖度だな。そう思った。体重計が教えてくれる、体内年齢(体年齢)という、得体の知れない数値。44歳とは若い。と思いきや、嫁も41歳で、しゃくにさわる。オムロンではもっと若く出るらしい。それに嫁の内臓脂肪率がたった3%などと、そんなことがありうるのか。開けて見たことはないけど。
きのう買ったタニタの体重計が告げる体脂肪率。嫁が22%、息子が7%、私が12%で、男女と年齢の表で見ると、三人が三人とも、「標準(-)」のマスのうち「痩せ」にいちばん近い場所に入っている。嫁など、あんなに筋肉なしのぶよぶよなのに、もう1ポイントでも下がれば痩せになるのが納得がいかん。
★居間で石原某が勝手にたばこを吸いだしたので、やむなくいくつかあったうちの大きくて小汚い灰皿を出してみると、当人は何かぶつぶつ言い始めた。この部屋には町田某もいたが思いのほか影が薄かった。彼ならやってくれるだろうという期待があったのだが、安楽した普通の生活者の域を出ていなかった。
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