Twitter に書いたのと、ほぼ同じことが出ています。
きょう七月末で一周。戻った、戻った。自分にとって、まこと驚嘆すべき一年だった。いろいろなことを学んだ。そればかりか、たとえこの先、何かを学ぶ機会があっても、習うという受身の態度では真剣には取り組めないことも知った。これは避難行動の支障ともなる、いわゆる正常性バイアスとも通底する。
丑二のころ停電した。その直前には起き出して、台風の風をたしかめに表に出ていたので、トイレの水には間に合った。夜が明けても津市内はまだら停電のようで、午前八時半のマックスバリュでの水汲みは、並ぶ人もおらずに拍子抜けする。昼を過ぎるも国道沿いのファミマと無愛想な店員の顔は暗いままで。
車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』。己を崖から突き落とした男の物語。なぜタイトルに『未遂』などという「説明文」を付けたのか。自叙伝の風の作用か。氏は『2015年5月17日、妻の留守中に、解凍済みの生のイカを丸呑みしたことによる窒息のため死去』らしい。主人公の嫌う生玉子の丸呑みを思い出す。
朝倉かすみ『田村はまだか』。十年くらい前に途中まで読んで捨てていた。読むまで知らなかった小さくてうまい表現が随所に見られる。あれとあの話が繋がるのかなと読者に思わせる、不自然だけど軽妙な仕掛けも楽しい。六人を中心とする登場する人物に、真に変な人はいない。現実の現実と馴染んでいる。
青山七恵『やさしいため息』。『ひとり日和』の次の作。順番に読むことにする。性格や行動が正反対の弟を光源に自分を照らし、影を描くことで光をも感じさせる。彼女にとって弟とは何だったのか。この小説は、もうひとりの自分などというキャラを打ち出すような趣向はない。青山氏独自の油絵みたいだ。
青山七恵『窓の灯』。自分より不幸で、自分より物憂げで、自分より感覚の研ぎ澄まされた人間などいなかった二十歳のころ。姉さんも、隣窓の住人も、先生も、真にわかりあえる人などだれもいない。実体験とあきらめと妥協が純度の高い理想を苛む。苛まれた理想が人を作り出す、みたいな。純文学の至高。
「忖度放送局」や「ステマ放送局」どころの話ではない。御身の予算を事実上つかさどる政権与党への茶坊主ご奉仕ぶりを何ら隠そうともしなくなった。思慮を放擲したおつむには、恥部丸出しの方が気楽でいいらしい。将来スマホを持つだけで受信料の対象だと。頼むから汚れた電波は相手を見てから撒いて。
「夢」「希望」「運命」などという語が出てくる小説は、真ん中から開いて左右に破り捨てましょう。こういう語を使いたがる作家は、かりにラーメン屋を開いたら、味付けのベースに市販の徳用醤油を使うに決まっています。世の中をなめきっている。某氏『アミダの住む……』。冗談かと思えるほどの凡作。
青山七恵『ひとり日和』。ちょいと前の芥川賞受賞作。短篇『役立たず』を読んでこのかた、氏に興味が湧いた。純文学のお手本のような小説だと思う。話が制作されたのは、作家24歳の時分。切った張ったで展開するストーリーや、もそもそ語る取扱説明書では当然ない。老人は死なないし若者は自殺しない。
さらば水無月。さらば梅雨。文学界新人賞締め切りよ、今回も流したね。おれは何をしたいのだろう。加齢で動作が緩慢になったせいか、時間の、時分秒の進み方が速くなった。腹筋三十回軽いもん。懸垂十三回いけるもん。靴下片足で履けるもん。そんな問題ではなくなってきた。時間がない。追いつかない。
けさラジオで森達也氏が日本社会の同調のこと、ヘイトスピーチのことについて語っていた。主語のない言葉は述語が暴れ出すとも。かつて得た、埴谷雄高の言葉が胸から抜けない。「スローガンを与えよ。この獣は、さながら、自分でその思想を考えつめたかのごとく、そのスローガンをかついで歩いてゆく」
テレビはないが、居間のラジオからはときどき人の声が聞こえる。ふんふん聞いていると、サッカーに関心がないという人間は、世の中にいないような気がしてくる。これは町内会の会合のあとで、「近所の人たちは声の大きな人ばかりでした」という感想をもつのと同じ。サッカー、ぜんぜん興味ありません。
カルガモが騒げば、人も騒ぐ。この(仕事で)忙しい時に、家人の呼びつける声が二階の仕事部屋に届く。カルガモの親子がいるという。道路をはさんだ斜め隣の庭に、数羽の子ガモを連れた例の行進が、でも見るのは初めて。近所からもわらわらと人が出てくる。この人ら、いったい仕事は何をしているのか。
年齢59、体重59、A1c 5.9、血圧102 / 62、体脂肪率10.6、内臓脂肪レベル6.0、基礎代謝1420、体内年齢44、身長167、IQ 133、服薬なし、サプリなし、妻帯、子あり、年収わずか、大学除籍、大学中退、職歴多数、狷介、外食しない、宿泊しない、観戦しない、運動好き、スポーツ嫌い、町田康やっぱり好き。
柴崎友香『春の庭』読了。何年か前の芥川賞受賞作。選考会で絶賛したという、その選考委員のほうに興味を持つ。一軒の家をめぐる、幾人かの重層的な想いを描いているのだろうけど、何にそれほど感動できるのか。家に対する西の執着も、終盤の姉への視点移動も、わが身を穿たない。自分は鈍すぎるのか?
きらいとは言えても、好きだとはいえなかった。どちらも同じ意味だけど。消してしまいたい時間の中に、消えないものがある。育つことのなかった小さな粒がゆえ、この身が焼かれるまで傍らにあり続けるだろう。けさ、ラジオで村下孝蔵の「初恋」を聞く。あさっては氏の命日。19年前はどんな空だったか。
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